(どーするかなぁ。考えてみれば友達って少ないんだよな……) ”木漏れ日”と呼ばれているフリーマーケットの一角で店を開きながら思案する1人の男性。 売っているものはたったの二つで、看板には【魔弾・動像作ります】とだけ書かれていた。 その男性の隣にはちょこんと正座しながら道行く人々を不思議そうな目で見ている少女。 「あらあら、可愛らしい看板娘さんですわね?」 ふと、店の前を通ろうとした女性が少女――姫輝をみつけてそんな言葉をかける。 姫輝は顔を真っ赤にして俯き、その様子を見た青年――照夜は姫輝を片手で撫でながら、 「魔弾50PS。動像は60PSですよ。強いのは作れませんが、合成用としていかがですか?」 「ん~……そうですわね~……」 ”営業スマイル”で目の前の女性に微笑みかける。 その服装からして巫女の方だと解るが、揺れる髪から時折何かが見える。 尖ったようなモノに見えるが、照夜にそれがなんだかはわからない。 (照夜、あの人。鬼……じゃないかな?) (鬼、ですか) ぼそぼそと耳打ちしてくる姫輝に返事をしながら女性を見る。 なるほど、と思う。ならばあれは鬼の角だろう。 (……記念撮影とかさせて貰えないかな) 現代では見ることのできない生物――言い方は悪いが事実――である。 看板を見て唸っている女性を見ながら思う。 「これも何かも縁かもしれませんわね~。お兄さん、この動像製作をお一つ頼めるかしら?」 「毎度ありがとうございます。お支払いは完成してからで大丈夫ですので、こちらにお名前をお願いします」 「わかりましたわ。えっと……」 さらさらと紙に名前を書いていく女性。 どうやら名前は草薙 飛鳥という方らしい。 「はい、確かに仕事の依頼承りました。では今晩から明日の朝にでも店に来――」 『やっとみつけた……。主殿、何処に行っておったのじゃ!1人で先々行ってはならぬと何度も行っておるじゃろう!』 「雪雫、遅いですわ。ちゃんと着いてこないと駄目ですわよ?」 『主殿があっちいったりこっちいったりして人混みに紛れるからこうなったのじゃろう!そもそも主殿は――」 「………」 突然現れた水の蛇と女性のやりとりに口を挟めずにいる照夜。 さて、一体どうしたモノかといると姫輝が照夜の裾を引っ張り口を耳に近づける。 (照夜、あれ式神だよ……。それもかなり高位の。あんな高位な式神、久しぶりに見たよ……) (式神……ああ、陰陽師の。ということはかなりの腕前さん?) (多分……。譲渡された、とかそういう例もあるから一概には言えないけどちゃんと使役出来ているところをみると……) 噂の式神と争っている飛鳥さんをみる。 手で式神を叩きつつも、ペチペチと尻尾攻撃を受けている。 空飛ぶ蛇を叩く女性と、女性を叩く蛇。端から見れば面白い光景なのだが……あれは使役できていると言うのだろうか。 結局あの後、2人(?)を落ち着かせて仕事の話をした。 照夜は飛鳥さんと。姫輝はあちらの式神――雪雫さん――と何か神様的な事を話していたが。 その後2人と別れ、後は魔弾の販売だけとなっていた。 「……売れませんねぇ」 「売れないねぇ」 お昼も近くなり、看板に【お昼休憩中。御用の方は表で叫んで下さい】と書いて奥に引っ込む。 お昼ご飯はおにぎりとインスタントおみそ汁。インスタントおみそ汁おいしいよね。 「というか、魔弾が売れるか売れないかはいいとして闘技大会どうします?このままだと不参加ですよ?」 「うーん……別に無理して出る必要もないんだけど……。力試しとしては出たいよねぇ」 前回の闘技大会ではらすぬこさん、はなむけさんと一緒に出たが、今回はらすぬこさんが他の方と出ると言ったのをきっかけに2人も別の方と組んでみようと思ったのが始まりだった。 しかし時は既に遅く、参加者を集めようと活動した頃には既に大半の人々が参加を決めていた。 結局誰も誘えず、こうやっているのだが……。 「やっぱり探すのが遅すぎましたね……。さて……どうするか――っと。ごちそうさまでした」 「ごちそうさまでしたっ。照夜も上手になったねー。後ははなさんにお料理教えて貰うだけだねっ♪」 「……まぁ、考えておきます」 そういって、おみそ汁とおにぎりの残骸を片づけてまた店番に戻る。 照夜は小さな椅子に腰掛け、姫輝は座布団の上に正座でちょこんと座る。 「さぁ、最後の商品【魔弾製作】はいかがですか。安いですよ、合成用としていかがですかー」 目の前を通り過ぎていく人達に声をかけるが、振り向きさえしない。 まぁ仕方ない。そもそも魔弾など最近は供給の方が多いのだから。 「……仕方ないですね。飛鳥さんの動像を先に造りますか。姫輝様、お客さんが来たら知らせてください」 「うん、頑張ってね」 材料を片手に奥に引っ込む照夜。その照夜に手を振って引っ込むのを確認すると、姫輝はまた店の前を通る人々を見つめ始める。 座布団の上でぽつんと座っている姫輝。瞬きはしているが、それ以外は何もせずただ置物のようにしている。 こうやって置物のようになっているのは苦痛ではない。 生前はそうやって過ごしていたし、神になってからも数百年は自由ではなかった。その時期と比べると雲泥の差なのだ。 それに、今は目の前を通る人々をみるだけでも姫輝には面白かった。 人間は勿論。エルフと呼ばれる長耳族の者や犬、猫、果てにはラッコや獣人と呼ばれる人も。 鬼なんかにも出会えたし、夢魔と呼ばれる存在にも出会った。 箱入り娘の姫輝にとっては全てが新しいモノばっかりだった。 今目の前を通った人なんて、ウエスタン風の服装をした女性とセーラー服と呼ばれる水兵さんの―― 「あ、エリスさんとユーリィさん?」 「「え?」」 2人同時に振り向き、同じ言葉を発する。 「こんにちは、お二人とも。どうしたんですか?こんなところで」 「それはこっちのセリフや。店番か?テルはどうしたん」 「照夜は今店の中で動像造ってますよ。お二人はどうしたんですか?」 「ん、それがな――」 「実は闘技大会に出れる人を捜してたんだけど、エリーさんも闘技大会の人集めしてたから一緒に組むことになったの」 嬉しそうに語るユーリィさん。 エリーさんは言葉を取られたのか、開いていた口を閉じている。 ……ひょっとしたら、これはチャンスなのかもしれない。 「あ、あの。もう闘技大会の人員って集まりました?」 「いや、まだのはずやけど。ユーリィはん、どうなん?」 「えっと……まだ私とエリーさんの二人だけだね。 あと一人、誰か探さなきゃいけないんだけど……」 「そ、それじゃあ!」 姫輝が大声をあげて存在を主張する。 フリーマーケットということもあったので、その大声は特に気にならないものだったが2人は少しびっくりしたようだ。 「えっと、私たちじゃ……だめでしょうか?今ちょうど闘技のメンバーを探していたんです! ……駄目でしょうか?」 不安げに尋ねる姫輝だが、2人は少し笑いつつも姫輝を見る。 まるで、その返事を待ってました、と言わんばかりの顔で。 「ええんとちゃう?なぁ、ユーリィはん」 「うんっ、こっちからお願いしたいくらい。いいかな、ヒメキ」 「も、勿論です!えっとえっと!て、照夜ー!ちょっとちょっとー!」 座布団から立ち上がり、店の奥に引っ込む姫輝。 2人はその様子を見て、嬉しそうな顔をしたような、しなかったような PR |
|
トラックバックURL
|